歌唱学習時における完全一度の取り方


 

Twitterにて完全一度の取り方について聞かれたので、詳しくざっくり(?)と説明したいと思います。

もし、「前置きはいらん!!本題を!改善する方法をはよ!!」という方はドンドコ飛ばしていってください。

完全一度とは?

和声の話にもなりますが、まず初めに「完全」について説明します。

完全があるから不完全がある。という訳ではありません。

完全とは1度、4度、5度、8度に存在する音程の種類です。

完全4度や完全5度の場合、半音を1つ含む音程で構成されています。
この半音が2つならば増4度、増5度となり、半音が無ければ減4度、減5度となります。

では、1度と8度は?というと、同じ音であるかどうかで決定します。

同度であれば完全1度、1オクターブ上の同度であれば完全8度になります。

つまり、C4とC4であれば完全1度。C4とC5であれば完全8度です。

完全1度の場合は同音(同度)のため半音階は0個となり、完全8度の場合は半音階が2個になります。

 

極端な話をすればA=440Hzの一点イ音(A)の音の完全一度は440Hzになるという仕組みです。

 

音感と歌唱音程

 

音感とはすなわち、記憶だと言えます。歌唱時にはその記憶(ピッチメモリ)を基に調音を行うのですが、

シーゲルという人が音感覚についてこう考えました。

Siegelさんの考え
1、符号化前の感覚をごく短時間記憶した感覚痕跡様式
2、音名などをラベリングした言語様式
感覚痕跡様式は文脈や妨害音による影響を受けやすく短時間の記憶のため記憶が減衰しやすい。
言語様式はカテゴリー記憶のため、文脈や妨害音による影響を受けづらく、長期間の記憶が可能である。
Siegel, J. A. Sensory and verbal coding strategies in subjects with absolute pitch. Journal of Experimental Psychology,(1974)

要約
音の取り方ってのは、「音名は分からないけれど前の音の記憶に対して歌唱する短期記憶」と「音名と音程を紐づけて音名を思い出せばその通りの音程が歌唱できる長期記憶」ってのがあるんだぜ。

 

「ただ歌うだけ」と思っているかもしれませんが、実はその間、脳はフル回転で音の記憶と情報を処理しています。

歌唱時の音程はその環境に寄る記憶の状態や元々ラベリングしている記憶に依存するというところにあるのです。

その依存した記憶と情報を取りまとめ、反回神経から声帯に指示を与え、声帯の厚さや長さを調節し音程を作り、実際に出た音程を調節する…。

というのが「音程を合わせる」という行動なのです。

人間の脳みそってすっげー。

 

絶対音感ってどういうこと

絶対音感はAbsolute Pitchは、外的に与えられた参照音と比較することなく音楽的音高を同定・産出できる能力と定義されています。

この能力は幼少期の訓練によって習得が可能とされていますが、この要素をリーバイティンさんはこう言いました。

絶対音感の保有者の要素
1 ピッチメモリ
安定した音高の長期記憶表象を保持する能力。
2 ピッチラベリング
音高に意味のあるラベルを付属させる能力。

絶対音感保有者は両方を保持し、非保有者はピッチメモリのみを保持するとしました。
Levitin, D. J. (1994). Absolute memory for musical pitch: Evidence from the production of learned melodies.

なんのこっちゃ?ってなるかもしれませんが、分かりやすく説明すると。

まず、頭の中に12個の鍵盤を思い浮かべてください。
任意の鍵盤を押すと音が出ました。
全ての鍵盤の音は違うようです。
音の違いがあるという事を認識しました。
そして、どこを押したらどの音が出るかを記憶しました。

これがピッチメモリです。
厳密に言うと鍵盤の色は真っ白だし、黒鍵部分は白鍵と同じ場所に無いと成立しませんが、こまけぇこたぁいいんです。

どの鍵盤を押したらどの音が出るか分かったので、それに名前を付けます。
全部で12個の音に名前を付けました。
任意の名前を提示されたらどの鍵盤の事かすぐに分かります。
そして、その鍵盤からどの音が出るかも記憶しています。

これがピッチラベリングです。

絶対音感保有者はこのピッチメモリとそれに対するピッチラベリングを行って音感を高めているのです。

 

音程を合わせる

では、少しずつ本題に焦点を絞っていきます。(そうでないと延々とたどり着けない。)

絶対音感保有者がどうやって音感を扱っているかを説明したのは理由があります。
むしろ、どうやって扱っているかはどうでも良くて…

多くの人はピッチメモリのみを利用して認識できない鍵盤で音程を取っている。という事のほうが重要なのです。

たとえ、音名で理解している!と思っていても、脳自体が「だいたいこのへ~ん」みたいな雑さであることもあり得るのです。

 

こういう経験はありませんか?

「最初は正しい音程で歌えるけれどだんだん音程が分からなくなる。」

「歌ってる最中に突然自分の音程が分からなくなる」

心当たりがある人は少なからずいると思います。

 

シーゲルの「符号化前の感覚をごく短時間記憶した感覚痕跡様式」というのを思い出してみてください。

タウ効果の影響やカテゴライズができていないまま、音感覚が短時間の記憶で構築され、妨害音による影響を受けやすい状態だとどうなるか。

歌唱時であればどんどん音程がずれて果てしなく高い調性で歌うことになったり、そもそも自分の歌っている音程がさっぱり分からなくなったりします。

 

でも、まって?妨害音?

静かな部屋で同じ曲を歌っているのに分からなくなるのはなんで?

実は理由はちゃんとあります。

 

声を合わせる

妨害音となっている原因は、実は声にあります。

「えぇ!音程を取っているのは声なのに声が妨害音!?」と思うかもしれませんが、声に含まれる要素が実は大きくかかわっているのです。

 

音声にはフォルマントというものが存在します。

このフォルマントは有声音に含まれる各周波数帯におけるピークのことで、基本周波数と無数の高調波が声道の共鳴により特定の成分だけが強められ特有の言語音として聞こえる。

要約
声って声帯が鳴らした音の倍音を喉や口で調節することによって言葉になるんだよ~!
同時にいろんな音を出すことによって言語として認識しているんだ!

 

普段会話している時、無意識のうちに音声の音程、特に母音形成において重要とされる第一フォルマントと第二フォルマントを聴取して言語を認識しているのです。

(細かいフォルマントの話は割愛します。詳しくは調べたり直接聞いてください)

フォルマントを聴くということは、周波数を聴いているという事です。

つまり、常に三和音を聴き続けているという状態に他なりません。

 

特にこのフォルマントは母音の種類によって変化するため、この三和音は常に同じという訳ではありません。

楽曲や音程、歌詞によっても変化します。

その周波数は決してハモっていたりするわけではなく不協和音であったり、ぶつかる音程であることのほうが多いのです。

つまり妨害音になりうるという事になります。

 

これが、完全一度を含む「音程が取れない原因」であり、声を合わせることの難しさに繋がるのです。

 

完全一度の取り方

ようやっと本題です。

では、完全一度を取るにはどうしたらいいか。の解説をします。

やることはいたって(言うのは)簡単なのですが、
音声の調節を行いながらピッチラベリングに必要なカテゴリの原型を作っていきます。

このカテゴライズの原型を作ることによって、音感に対する認識力を上げ、ピッチメモリを強化していきます。

 

必要な物

チューナー(アプリ等でも可。音声の音程も取れるものだと尚良し)

音の出る楽器(サインウェーブの出る電子楽器でも…まぁ…可)

 

方法

1、楽器の音程をチューナーで確認
これが違ったら元も子もありませんからね。また、任意の音律であったり周波数を求める場合はこの時に調節してください。

2、まずは楽器の音と自分の声を交互に出しチューナーで周波数を確認。
この時、母音は変えずに行いましょう。

3、母音を変化させながらチューナーで確認。
この時母音のフォルマントに影響されて音程が変化しないように気を付けましょう。
例 い→え→あ→お→う という母音をゆっくり舌部と口唇を変化させながら発音

4、その音名の子音を付ける。
ド→Do→D、レ→Re→R、ミ→Mi→M、ファ→Fa→F、ソ→Sol→S、ラ→La→L、シ→Ti→T
レは巻き舌が出来るとラと区別しやすいと思うのでなお良しかと思います。
シに関しては諸説あり、SiでもTiでもいいのですが、この辺は臨機応変に使ってみてください。

5、楽器の音程を聴いて、発声。
ここからはチューナーを常に確認せず、耳を鍛えていきましょう。トライ&エラーが大事です。

6、楽器を使わずに発声しチューナーで確認
ここまでくれば音感に対するカテゴライズのプロトタイプが出来上がってきています。

ざっくりとですが、こういう方法を行うことによって、音感や普段取りづらい部分の音程を強化することが可能になります。

 

もっと簡単な方法はボイトレやレッスンに行く事ではあるのですが、もし自分だけでやってみたい!という方は試してみてください。

また、もし興味があったら、1000年前後にグイード・ダレッツォによって書かれた聖ヨハネ賛歌を調べてみると、当時から音感や音階について議論されていた様が想像できるかと思います。

 

まとめ

こんな感じで書いていきましたが、疑問は解消されたでしょうか?

この記事の内容は若干オンラインサロンっぽくなっている気がしています…笑。興味がある方は調べてみてください。

もし、また気になること等ありましたらリプライしてくださればのんびり答えていくのでどうぞお気軽にお声掛けください。